遺言で他の人に財産を与える~遺贈について
遺贈とは?~遺言による財産処分
遺贈とは、遺言によって無償で財産的利益を他人に与える行為です。
遺贈によって利益を得る人を「受遺者」といいます。
もちろん相続人も受遺者になることが出来ますし、相続とは違い、法人も受遺者になることができます。
遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」があります。
「包括遺贈」は、遺産の全部又は一定の割合で示された部分を与えるもので、相続人と同一の権利義務を有することから、債務も承継します。
「特定遺贈」は、遺産中の特定の財産を与えるものです。特定遺贈の対象財産は、特定物の場合もあれば、不特定物の場合もあります。不特定物とは、例えば「土地3筆」「株券1000万円分」といったようなものです。
包括遺贈?相続分の指定?
被相続人(遺言を残す人)は遺言によって相続分を指定することが出来ます。
相続人に対して割合による包括遺贈をした場合、それが「相続分の指定」なのか、「包括遺贈」なのかが問題となります。
例えば、被相続人が相続人のうちの一人に遺産の1/3を与えるという遺言をした場合を考えてみましょう。
まず、これが包括遺贈と解した場合は、以下のようなことが言えます。
1.代襲相続が起こらない
2.相続を放棄しても受遺者としての権利を失わない
3.包括遺贈を除いた残りの部分について相続が開始するため、超過受益でないかぎり、相続人として具体的相続分の権利を有する
それに対して、これが相続分の指定だと解すると、以下のようなことが言えます。
1.代襲相続が起こる
2.相続を放棄すると権利を失う
3.指定相続分だけの権利を有する
このように、包括遺贈なのか、相続分の指定なのかによって大きな違いがうまれます。
包括遺贈と解した場合は、相続放棄をしても受遺者としての権利を失わないことから、相続債務が多い場合などには、遺贈されたプラス財産は受遺者として受け取り、相続放棄をすることでマイナス財産から逃れる、ということが可能です。
愛人に全財産を遺贈することは出来る?
遺言を残そうとしたとき、相続人ではなく他の人に財産を遺贈したいと考える人もいるでしょう。
遺留分の問題はありますが、全財産を相続人以外の人に遺贈するということも可能です。
■遺留分については以下の記事も参考にしてください
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遺留分について
しかし、遺贈が「公序良俗違反」とされると、無効になることもある。
「公序良俗」とは、公共の秩序を守るための道徳観念のことです。つまり、公序良俗違反とは、一般的な社会通念から逸脱している・常識的に考えておかしいと思われるようなことです。
例えば、愛人に全財産を遺贈するという遺言を残したとします。
不倫や浮気は、「公序良俗に反する」ことであるとされます。そのため、愛人への遺贈が不倫関係の維持継続などを目的としたものの場合は、公序良俗違反として無効となる可能性が有ります。
しかし、無効になるかどうかは、遺言作成の時期や愛人関係の継続期間、配偶者との婚姻関係の実態、遺贈の額や割合、法定相続人の生活基盤への影響など、総合的な考慮に基づいて判断されます。
負担付遺贈
遺贈する際に、受遺者に一定の義務を課すことを「負担付遺贈」といいます。
例えば、全財産を遺贈するかわりに残された子の養育をするという条件を付けたり、残された配偶者の介護を義務付けたりするということが負担付遺贈にあたります。
この場合、受遺者は遺贈の目的の価額を超えない限度で、負担した義務を履行する責任を負います。
もしも、受遺者が義務を履行しない時は、負担によって利益を受けるべき人=受益者(上記の例でいうと養育される子・介護してもらう配偶者)が義務の履行を受遺者に請求することが出来ます。
さらに、相続人または遺言執行者は相当の期間を定めて履行を催促し、それでも義務が履行されない場合には家庭裁判所に遺言の取り消しを請求することも出来ます。
もしも負担付遺贈が取り消された場合には、遺贈は最初から効力を失ったことになり、受遺者が受け取るはずだった遺贈は相続人のものということになります。