一番簡単に書ける遺言!~自筆証書遺言について知ろう

一番簡単に書ける遺言!~自筆証書遺言について知ろう

「遺言」とひとことで言っても、実は遺言には種類があります。この記事では、そのうち「自筆証書遺言」について、他の遺言と何が違うのか?どのような特徴があるのか?といったことについて解説します。


遺言には種類がある!

遺言にはいくつか種類があります。が、実際に書くとなったらほとんどの人が「自筆証書遺言」か「公正証書遺言」のどちらかを選択することになると思います。なぜならば、他の遺言方式は特例中の特例といった、緊急時しか認められないものであったり、実務上ほとんど作成されていない方式だからです。
自筆証書遺言と公正証書遺言は、それぞれメリットとデメリットがあります。それらを把握して、自分に最もあった遺言方式を選ぶ必要があります。

 ★遺言方式についてはこちらの記事もご覧ください。
 遺言にも種類がある!~遺言方式

 


自筆証書遺言とは?

自筆証書遺言とは、遺言者が自分ひとりで書くことが出来る遺言です。
紙と筆記用具さえあれば、好きな時に好きな場所で書くことが可能です。手数料等の費用がかかることもないので、最も簡単で手軽に書くことが出来る遺言という事が出来ます。

一方で、自筆証書遺言の大半は自宅で保管されるため、亡くなった後で発見されない、紛失してしまうというリスクがあります。さらに、折角書いておいても、遺言者の死後、遺言の内容を良く思わない人に発見され、内容を偽造されてしまったり、遺言書そのものを破棄されてしまう可能性もあります。

また、遺言内容を実現させるには、相続開始後に家庭裁判所に検認の申し立てをしなくてはなりません。そのため、遺言書を発見してからすぐに相続手続きに取り掛かることは出来ず、検認が終わるまで待っていなくてはなりません。そもそも、家庭裁判所に検認の申し立てをする手間と時間もかかります。(検認についてはこの記事内で後程詳しくご説明します。)

自筆証書遺言は、遺言書が発見された後、遺言内容を実行するまでに相続人等にある程度の負担がかかるということを知っておきましょう。


自筆証書遺言の書き方

次に、自筆証書遺言をどのように書けばよいのか、そのポイントを説明します。

POINT①

自筆証書遺言に絶対に書かなくてはならないことは、「全文」「日付」「氏名」!

まず、自筆証書遺言には「全文」「日付」「氏名」を必ず書かなくてはなりません。日付が抜けていたり、氏名が抜けている場合は無効になってしまいます。

 

POINT②

遺言者自身が書かなくてはならない!

上記の、「全文」「氏名」「日付」は、自書しなくてはなりません。パソコンなどで印字したものは認められません。
遺言書には、相続財産を「目録」にまとめて、別紙で添付することが良くあります。この目録も、自分自身で書かなくてはならないのでしょか。

以前は遺言書に添付する相続財産の目録も、全て自分で書かないとなりませんでした。相続財産が多い方はそれだけでも大変な労力がかかります。
この点については、2018年7月に法律が改正されました。これにより、相続財産の全部または一部の目録を添付する場合には、その目録については自書する必要はなくなりました。ただし、その目録の毎頁に署名し、印を押さなくてはなりません。

法改正で遺言者の負担は少し減りましたが、遺言書の本文は自書が必要です。そのため、高齢の為に手に力が入らない、目が見えづらくて文字が書けない、といった理由で自分で長文を書くのが難しい方は、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言を作成することをお勧めします。

過去には、病気などの理由で手がふるえてしまい、自分一人では書くことが出来ない人の場合は、他人の添え手による補助を受けて作成しても自書と認められた事例もあります。しかし、添え手をした他人の意思が運筆に介入した形跡のないことが筆跡の上で判定出来なくてはならず、他人の誘導がみられるとして自書ではないとされた判例もあります。

誰かの助けを借りないと自筆証書遺言が書けない場合、その遺言が有効となるか無効となるかは遺言書を書いた段階では分かりません。最悪の場合、長い裁判を経て遺言書自体が無効になってしまう可能性があります。

 

POINT③

日付はいつなのかを特定できる書き方で!

日付は、年月日が特定できるものでなくてはなりません。年月のみであったり、「令和〇年〇月吉日」といった書き方は無効となります。
しかし、逆に言うと年月日さえ特定できればいいので、「第60回目の誕生日」「2022年こどもの日」などの記載でもいいとされています。この日付は、日付を含めて遺言全部を完成した日を書きます。

日付を記載する位置については規定がないので、遺言書を入れている封筒の上に記載されていても大丈夫です。

 

POINT④

氏名は、確実にその人だと特定できる書き方で!

氏名については、遺言者の同一性が確認できるかどうかが重要とされています。
そのため、例え書かれた氏名が戸籍上の氏名ではなく通称や雅号、ペンネーム、芸名等であったとしても、遺言の内容その他から遺言者が特定できる場合には、氏名の自書として有効となる可能性があります。

しかし、戸籍上のものとは違う氏名を書いた場合、それが有効である保証はどこにもありません。どのようなケースであれば有効で、どのようなケースだと無効になってしまうのかはケースバイケースです。
トラブルを回避するためにも、何か特別な理由がない限りは氏名は戸籍上のものと同じ氏名を書くことをお勧めします。

 

POINT⑤

押印も忘れずに!

遺言書には押印も必ず必要なので、忘れずに押すようにしましょう。

押印については、実印である必要はなく、認印や指印でも良いとされています。遺言書が無かった場合に相続人が作成する、遺産分割協議書の場合は必ず実印の押印が必要なので、その点は遺言書と遺産分割協議書で違うところです。
認印であっても遺言書が無効になることはありませんが、実印を押印して、印鑑登録証明書を遺言書に添付しておけば、本人が書いたものであるという信憑性が高まります。

 

POINT⑥

訂正する時は要注意!ただ二重線をひいて書き直すだけではダメ!

遺言書を完成させてから、相続財産の内容が変わったり、気持ちが変化したりということは十分起こり得ることです。
一度書いた遺言書を訂正したり、内容を付け加えることは可能です。ただ、ただ修正する場所を線で消して、そのそばに新たに書き直すという方法は認められません。自筆証書遺言を修正する時のルールも法律で決められています。
次の①~③のルールを守って訂正をしなくてはなりません。

 ①遺言者が変更した場所を指示する
 ②変更した旨を付記して署名する
 ③その変更場所にも印を押す

 


遺言書を見つけても勝手に開封してはダメ!~遺言書の検認とは

遺言者が亡くなった後自筆証書遺言を発見したら、その遺言書を家庭裁判所に提出してその検認を請求しなければなりません。

検認とは、相続人に対して遺言の存在およびその内容を知らせると共に、遺言書の現状を確認し、遺言書の偽造や変造を防止するための手続きです。
つまり、遺言書が発見されてから、裁判所が他の相続人に対して遺言書があったということを通知し、誰かが勝手に開封して中身を書き換えてしまったりしていないか確認をするのです。

封印のある遺言書は家庭裁判所で相続人等の立会いの上、開封しなければなりません。
もしも、開封手続きに違反した場合には5万円以下の過料に処されることになっています。遺言書を発見して、そのままビリビリト封を切って中身を見てしまった場合、偽造などの意図がなくとも過料がかされる場合がありますので、注意が必要です。

検認は証拠保全の手続きであって、遺言書の有効・無効を判断する手続きではないため、検認を受けたからと言って遺言書が有効となるとは限りません。
ちなみに、公正証書による遺言と後述する遺言書保管所に保管された遺言書は、この検認は不要です。

<検認の流れ>

  1. 遺言書を保管していた人または見つけた相続人が申立人となり、遺言者の最後のの住所地の家庭裁判所に検認の申し立てを行う。
  2. 家庭裁判所から申立人および相続人に対して検認の期日が通知される。
  3. 家庭裁判所から申立人および相続人立会いの下で、家庭裁判所で遺言書が開封される。なお、申立人は必ず出席し、相続人は各自の判断で出欠席を決める。
  4. 家庭裁判所は遺言の形状、遺言書の加除訂正の状態、遺言書に書かれた日付、署名、印などについて確認し、この結果を検認調書にまとめる。
  5. 申立人または相続人等が家庭裁判所に「検認済証明書」の発行を申請する。これをもとに、遺言執行をする。

相続手続きの際に自筆証書遺言が必要な時は、「検認済証明書」もセットで提出することとなります。

 


自筆証書遺言を保管してもらえる制度ができた!

2018年7月の法改正に合わせて、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる仕組みが出来ました。

これは、自筆証書遺言を書いた後、遺言者が法務局に保管の申請をすることで遺言書が画像データとして保管され、相続が発生した後で相続人等がその内容を証明した書面(遺言書情報証明書)の交付または閲覧を請求できるというものです。

この制度を利用すると、遺言書の偽造変造の恐れがなくなるので、家庭裁判所による遺言書の検認が不要となります。

現在、例え遺言者が亡くなったとしても、保管している遺言書の存在を相続人に通知される仕組みはありません。そのため、遺言書を保管していたとしても、相続人がその存在を知らないとそのままになってしまう可能性があるので注意が必要です。


自筆証書遺言を選択するかどうかは自由

自筆証書遺言にはメリットとデメリットがあります。
遺言者が何を優先させるのか、どのようなことを心配しているのかによって、自筆証書遺言にするか、公正証書遺言にするかを選びます。

自筆証書遺言であっても、公正証書遺言であっても、しっかりとルールを守って作成された遺言書であれば効力は同じです。どちらでも、同じように相続手続に使うことが出来ます。
実際に遺言書が必要になるのは、遺言者がいなくなってからです。自分がいなくなった後の事を想像して、誰が遺言書を必要とするのか、遺言執行者は誰か、どのような手続きが必要になるのかといったことを踏まえて、最適な遺言方式を選択するべきです。

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北野早紀行政書士事務所
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