<国際相続①>日本に住む外国人が亡くなったら?

<国際相続①>日本に住む外国人が亡くなったら?

国際化が進む昨今、日本で生活する外国人も多くなりました。日本に仕事の関係で数年暮らした後、母国に帰る方も勿論いますが、日本で家庭を築き、永住するといったパターンも少なくありません。
ここで言うまでもないことですが、日本は少子高齢化が社会問題となっており、それに伴って相続や終活といったキーフレーズを今まで以上に目にするようになりました。これからは、「親族の中に外国人がいる場合の相続手続き」や「外国人本人の相続手続き」がどんどん増えていくことが予想されます。

この記事では、外国人が日本で亡くなった場合、どのような手続きが必要なのか、日本人の相続手続きと違うところはどのようなところかを解説します。

なお、この記事では遺言書がないことを前提として説明しますので、その点ご承知おきください。


外国人が関わる相続のパターンとは?

相続に外国人が関わるパターンは大きく2つに分かれます。
まず1つ目は、相続関係者(相続人など)の中に外国籍の人がいるパターンです。例えば、日本人と外国人が結婚し、日本人が亡くなった場合などは、残された配偶者=外国人が相続人となるのでこのパターンに当てはまります。
2つ目は、日本で生活する外国人本人が亡くなったパターンです。

そして、さらに亡くなった方の財産が日本だけにあるのか、外国にもあるのかといったことも、手続き上重要なポイントになります。

このような、人や財産が2か国以上にまたぐ相続を「国際相続」または「渉外相続」と言います。
この記事内では取り上げませんが、当事者が日本人だけであっても、相続財産が外国にあれば「国際相続」ということになります。


相続人の中に外国人がいる場合は?

まず、相続人の中に外国人がいるパターンについて説明します。
亡くなったのが日本人で、その人が外国人と結婚していた場合や、子どもが外国籍の場合などが当てはまります。

この場合は、相続関係者が日本人だけである場合と同じ手続きが必要になります。法定相続人になるかどうか、法定相続分がどのくらいかということに国籍は関係ありません。外国人も日本人と同じルールに従って相続人や相続分を決定します。
ただ、外国人が相続人の場合、相続手続きに必要な書類の準備に手間取ることがあります。

★相続人の中に外国人がいる場合についてはこちらの記事をご覧ください
 <国際相続②>相続人が外国人の時、気を付けることは?


外国人が日本で亡くなったら?

外国人が日本で亡くなった(=被相続人が外国人)のパターンを説明します。
外国人の相続が発生した時、まず確認しなくてはならないのは「どこの国の法律に従うべきか」(=準拠法は何か)ということです。
日本で生活していたとはいえ、日本国籍は持っておらず、親や兄弟は外国で暮らしている場合…死んだ後の手続きでどこの法律を基準にするかなんて普段の生活の中で意識することはありませんから、聞かれても困ってしまいますよね。

国際相続の準拠法については、「法の適用に関する通則法」という法令で定められています。この法令の中に、次のような条文があります。

<法の適用に関する通則法>

(相続)
第36条 相続は、被相続人の本国法による。

これを読んで分かる通り、国際相続は「被相続人」を基準として適用される法律が決まるのです。「被相続人」とは、亡くなった人のことです。つまり、外国籍の人が日本で亡くなった場合はその人の本国の法律に従って相続手続きを行わなくてはならないのです。

ただし、本国の法律に「その人が住んでいる地域の法律が適用される」とされていた場合は、生前住んでいた地域=日本の法律を基準として手続きします。これを専門用語では「反致」と言います。

外国人の相続時にどこの国の法律に従えば良いか?

<基本>
亡くなった外国人の本国の法律

しかし・・・
<本国の法律で「その人が住んでいる地域の法律が適用される」と決められていた場合>

日本の法律
→これを「反致」という

さらにややこしいことに、相続財産が何かによって従う法律が異なる場合があります。

日本は、相続の基準となる法律は一か国に統一されます。しかし、国によっては相続財産を動産・不動産に分け、それぞれ異なる国の法律を基準にしなくてはなりません。例えば、アメリカ人が亡くなり、その人の相続財産が日本の不動産や預貯金だった場合、不動産についてはその所在地の法律(=日本の法律)に従い、それ以外の財産についてはアメリカの法律(アメリカの場合は州法)に従うこととなります。

日本のように、相続財産の種類や所在地に関わらず、すべて被相続人の本国法を適用することを「相続統一主義」といいます。

一方、アメリカのように、相続財産の種類や所在地によって異なる法律を適用させることを、「相続分割主義」といいます。

このように、亡くなった方の国籍によって適用される法律が変わってくるため、慎重に手続きをする必要があります。

おまけ:「大陸法系」と「英米法系」のおはなし

法律は「大陸法系」と「英米法系」の2つの法体系に分類されます。
「大陸法系」は日本、韓国、台湾、イタリア・スペインなどのイギリス以外のヨーロッパ諸国などが該当します。
一方で、「英米法系」はアメリカやイギリス、オーストラリア、中国などが該当します。

上記の「相続統一主義」は大陸法系の国々での考え方であり、「相続分割主義」は英米法系の国々での考え方です。

こういったことは専門家が知っていれば良いだけで特に覚える必要もないですが、国際相続の手続きをする時にはまず「国によって法律の考え方の違いがあるんだ」という大前提があるということは知っておいた方が良いですね。


外国に住む外国人が相続人だった場合

どこの国の法律に従えばいいか(準拠法)が分かったら、相続人調査を行う必要があります。

相続人が日本人であれば、戸籍や住民票などを辿っていけば相続人に辿り着く可能性は高いです。
しかし、日本の戸籍のような制度がある国は少なく、相続人が外国に住んでいる場合は調査が非常に難しくなります。苦労して相続人が判明したとしても、相続手続きを進めるためには外国人相続人と連絡を取り合い、相続人であることの証明書類を用意したり、それを日本語に訳したりしなくてはなりません。お互いの言葉が分からない場合は、通訳や翻訳を介したコミュニケーションが必要となります。
そして、外国人が相続人である場合であっても、日本人だけの相続手続きと同様遺産分割協議書を作成しなくてはなりません。これも、外国人が理解できる言語で作成する必要があります。さらに、外国に住む外国人の場合は日本人の印鑑証明書の代わりにサイン証明書が必要です。

ただでさえ、相続手続きは複雑で手間がかかります。外国に住む外国人とのやり取りや手続きが必要となると、当人たちだけではお手上げになってしまうことがほとんどではないかと思います。


日本だけではなく外国にも財産があった場合

亡くなった方が、日本だけではなく外国にも財産を所有していることも想定されます。日本の相続財産を調査するだけで終わらせず、本国や関係の深かった国に財産がないかどうかを調べる必要があります。

調べた結果、外国にも財産があると分かった場合、国によって必要な手続きが異なります。

アメリカやイギリスなどでは、その国にある財産を相続するためには、プロベイトという手続きが求められます。これは、裁判所の監督のもと債務の支払いなどを行い、精算が終わった後あまった財産があれば相続人が受け取ることが出来る、というものです。(管理精算主義といいます。)この手続きを行うためには、その国の弁護士に依頼する必要があります。

一方で、日本やイギリス以外のヨーロッパ諸国などではプロベイトはなく、基本的にプラス財産もマイナス財産も全て包括的に相続人が相続することとなります。(包括承継主義といいます。)

  ★日本の相続財産の基本的な調べ方についてはこちらの記事をご覧ください。
  相続に必要な手続き③~相続人・相続財産の調査
  亡くなった方が残したもの~相続財産について解説!


国際相続は複雑…慎重かつ丁寧な対応が必須!

外国人が相続関係人に含まれる場合、日本人だけの相続手続よりも煩雑になることがほとんどです。専門家に依頼するにしても、相続手続きについてだけではなく、国際業務についても精通している専門家を探す必要があります。
また、海外とのやり取りが発生すると、どうしても時間がかかりがちです。相続手続きが長期化することを見越して、早め早めに行動した方が良いでしょう。

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北野早紀行政書士事務所
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