レストランの料理人を雇いたい~技能ビザについて解説!

レストランの料理人を雇いたい~技能ビザについて解説!

中華料理屋やタイ料理、フランス料理など、外国料理のレストランは日本でも人気です。そういったレストランで料理人として、母国の人材を雇用することも多いかと思います。
この記事では、レストランの料理人を雇用する時の在留資格「技能」について解説します。


在留資格「技能」とは?

この在留資格(ビザ)は、いわゆる就労ビザと呼ばれる、仕事をする為の在留資格の一つです。
技能ビザは、産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を必要とする業務に従事する場合に取得するビザです。
具体的には次の通りです。

①外国料理の調理
②外国で考案された工法による住宅の建築
③外国に特有のガラス製品、絨毯等の制作又は修理
④宝石・貴金属・毛皮の加工
⑤動物の調教
⑥海底掘削や海底地質調査
⑦定期便の航空機の操縦
⑧スポーツの指導
⑨ワインの鑑定

レストランの調理人を雇用する場合は、この中の①外国料理の調理 に当てはまります。


どんな活動が当てはまるのか?

技能ビザに該当する活動は、次のように規定されています。

「本邦の公私の機関との契約に基づいて行う産業上の特殊な分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する活動」

この規定について、少し細かく解説していきたいと思います。

POINT①

「本邦の公私の機関との契約に基づいて」行う活動


本邦の公私の機関

会社、国、地方公共団体、独立行政法人、公益法人等の法人の他、任意団体も含まれるとされています。また、日本法人のほか、外国法人であっても日本国内に事業所等があれば該当すると考えられます。

契約に基づいて

ここでいう契約とは、雇用契約の他、業務委託契約等も含まれます。

 

外国人を雇用する機関の適正性・安定性・継続性について!

外国人を雇用する側についても、審査ではしっかり見られます。

「適正性」

事業を行う上で法令を遵守していなくてはなりません。例えば、許認可が必要な事業を行っている会社であれば、その許認可を当然もっていなくてはなりません。レストランであれば飲食店の営業許可を取得していなくてはなりません。
当たり前ですが、違法行為や不正行為をしてはいけません。
審査では、現在持っている許認可証を提出するよう求められたり、今まで行政処分等を受けたことがないかということがチェックされたりします。

「安定性及び継続性」

組織規模、売上高、営業年数などから、経営が安定しているか、今後経営を継続する力があるかといった点を審査されます。
財務諸表などから、経営が不安定であるとか、従業員を新たに雇用するだけの財政的余裕がないと判断されると、審査に影響します。
分かりやすいところでは、直近の決算が赤字になってしまったとか、債務超過になってしまったという場合は注意が必要です。
また、開店直後は安定性と継続性を疑われやすいので、事業計画書などで今後の経営の見通しについて説明すると良いでしょう。

事業所の規模も重要です。事業所・店舗が十分な規模確保されているかということを、店の見取り図などで確認されます。
また、賃貸契約などをしている店のオーナーが外国人の場合、経営・管理ビザで在留しているかどうかもチェックされます。経営・管理ビザではなく、技能ビザで在留している調理師がオーナーも兼ねているような場合は、不許可になってしまいます。技能ビザは事業経営を行うことを認めておらず、機関の適法性を欠き、安定的かつ継続的な活動を行うことが出来ないと判断されるからです。
では逆に、経営・管理ビザで在留している外国人オーナーが、厨房で調理をすることは許されるのでしょうか?
あくまでも臨時的、一時的に調理をすることはある程度許容されますが、それが恒常的であったり、調理に従事する時間が長いと資格外活動と判断されます。

★経営・管理ビザについてはこちらの記事もご覧ください。
外国人が日本で起業する場合~経営・管理ビザについて解説!

 

POINT②

「産業上の特殊な分野に属する」業務

 

これは、外国に特有の産業分野、外国の技能レベルが日本よりも高い産業分野、日本で熟練した技能をもった労働者が少数しかいないような産業分野のことをいいます。
中華料理や、フランス料理といった外国料理の分野は、外国の技能レベルが日本より高い産業分野とされています。

POINT③

「熟練した技能を要する」業務

 

熟練した技能とは、長年の修練と実務経験により身につけた、熟達した技量を必要とする業務だとした判例があります。
逆に、熟練した技能を要する業務に当てはまらない業務としては、単純作業で行う業務があります。単純作業は、特別な技能や、特別な判断を必要としない業務だからです。調理でいえば、ただ温めるだけで出来る料理の調理や、簡単な調理補助だと熟練した技能を要する業務と認められない可能性が高いです。

熟練した技能を要する業務に当てはまるかどうかは、店のメニュー表や、コース料理の有無、実際に提供される料理の写真、店の外観の写真、厨房や客席の写真などから判断されます。

また、料理人が調理以外の業務に従事させられる疑いがあると、不許可になってしまいます。例えば、店舗で料理人以外の従業員がいないと、食器洗いやホール業務、会計なども料理人が兼務するということになってしまいます。調理以外の業務は、技能ビザでは認められていない仕事です。それらの仕事の比率が高いと判断されると、技能ビザは取得できないのです。
他の従業員の確認のため、従業員のリストを提出するよう求められることが多くあります。
その場合、過去に提出した他の従業員の申請書類との矛盾がないかも、チェックされることがあります。多くの場合、店舗で複数の料理人を雇用しています。他の料理人が昔提出した従業員リストと矛盾があると、信憑性がないと判断されてしまいます。


技能ビザを取得できるのはどんな人?(調理師、製菓技術者の場合)

技能ビザを取得するには、法律で定められた要件を満たさなくてはなりません。
技能ビザの要件は、従事しようとする業務(この記事内『在留資格「技能」とは?』で挙げた①~⑨まで)ごとに定められています。
この記事では、調理人が技能ビザを取得しようとした場合を紹介しているので、①調理師、製菓技術者の場合の要件を紹介します。
要件は次の通りです。

  • 料理の調理又は食品の製造に係る技能で外国において考案され我が国において特殊なものを要する業務に従事する者で、次のいずれかに該当するもの
    ①当該技能について10年以上の実務経験(外国の教育機関において当該料理の調理又は食品の製造に係る科目を専攻した期間を含む)
    ②経済上の連携に関する日本国とタイ王国との間の協定附属書7第1部A第5節1(c)の規定の適用を受ける者

  • 日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること

 

外国において考案され我が国において特殊なものを要する業務

調理や製造の技術が外国で考案されたもので、かつ、日本であまり普及していないものを意味します。
例えば、中国料理、フランス料理、インド料理、点心、パン、デザート等を製造する調理師やパティシエが該当します。
街の中華屋さんで食べられるようなラーメンは、起源を辿れば中国に由来するかもしれませんが、日本で独自に発展して日本人が好む味付けや具材が一般的に普及したものなので、技能ビザの対象にはなりません。同様に、インドカレーやパキスタンカレーではなく、日本式のカレーライス屋で提供されるカレーも、対象になりません。

実務要件について

実務経験が10年以上あることが必要です。勿論自己申告では駄目で、客観的に証明されなくてはなりません。
そのためには、在籍していたレストランなどが作成する在職証明書が必要です。在職証明書はレターヘッド付きのものでないと、実務経験として認められないことがあります。
調理師として働いていたとしても、実務経験の年数に含まれないことがあります。例えば、屋台での実務経験は認められません。さらに、ヘルパーやアシスタントとして働いていた期間も、実務経験の期間には含まれません。熟練した技能に係る業務の経験とは言えないからです。同様の理由で、10代前半の調理師経験も、認められないことが多いです。

在職証明書に書かなくてはいけない項目は、名称、住所、電話番号、在職期間です。
在職証明書に書かれた連絡先に、入管職員が電話をすることがあります。実際に店舗が存在するのか、そこで働いていた実績があるのかの確認をする為です。在職証明書に書かれていることに何の嘘偽りもなく、実際は全く問題がない場合であっても、入管から連絡が来た時にたまたま応対した従業員が「そんな人は知らない。店にいたこともない。」と答えてしまうと大変です。いくら在職証明書が発行されていても、信憑性なしと判断されてしまいます。
在職証明書を発行してもらう時は、必ず発行元の従業員に事情を説明し、入管からの連絡が来るかもしれないこと、その時は在籍していたという事実を言って欲しいことを伝えておきましょう。

転職が多ければ、それだけ取得しなくてはならない在職証明書も多くなります。また、在職証明書を発行したくても、元勤め先が無くなってしまっている場合等、どう頑張っても手に入れることが出来ないこともあります。

10年間の実務経験を証明するのは、想像以上に大変なのです。

タイ料理人について

タイ料理人の場合は、次の①~③の要件を満たしていれば、必要な実務経験が5年間に短縮されます。

①タイ料理人として5年以上の実務経験を有していること(タイ労働省が発行するタイ料理人としての技能水準に関する証明書を取得する要件を満たすために、教育機関において教育を受けた期間を含む)
②初級以上のタイ料理人としての技能水準(レベル1)に関する証明書を取得している
③日本国への入国及び一時的な滞在に係る申請を行った日の直前1年間、タイでタイ料理人として妥当な額の報酬をうけている(うけていた)

報酬要件について

報酬要件でいう報酬の中には、通勤手当は扶養手当、住宅手当等の課税対象とならないものは含まれません。
基本給や賞与が、同じ仕事をする日本人と同等額以上であることが必要です。外国人だから、日本語が上手じゃないから、などの理由で、入社時の給料を低く設定するようなことは許されないということです。
申請する際には、雇用契約書などを提出することになりますが、そこに支払い予定の給与額を記載する必要があります。この給与額が低すぎる場合は、不許可になってしまいます。
報酬が妥当かどうかの判断は、基本的には同じ職場で同じような仕事をしている日本人の給与額と比較されます。しかし、そういった人が事業所内にいない場合は、他の事業所で同じ仕事をした場合の賃金が参考とされます。
勿論、労働基準法に基づいた給与計算が行われていなくてはなりません。最低賃金以下で設定されていると、不許可になってしまいます。


おわりに

ここまで技能ビザのことについて解説してきました。
本場の味を提供する為に、本国のベテラン料理人を日本で雇用したいと考える人は多いです。
技能ビザの場合、10年間の実務経験を証明するのに苦労することが多いです。
まずは今までの経歴を整理し、10年間の要件を満たすか、それを立証できそうか、確認してみましょう。

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北野早紀行政書士事務所
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